第1楽章 クリマツォニィー
第2楽章 性格的でバッハ風の舞曲
第3楽章 アンダンティーノスタルジー
第4楽章 トゥフ
大人気曲の〈タンゴ・アン・スカイ〉や〈フォーコ〉などと比べると必ずしも演奏機会が多いとは言えない《ヴィラ=ロボス讃歌》ですが、ディアンスの作曲家としてのキャリアを考える上では非常に重要な作品です。本作とヴィラ=ロボスの《ギター協奏曲》《ブラジル民謡組曲》〈ショーロス第1番〉を収録し1987年にリリースしたディアンス自身のCDは、ACC(アカデミー・シャルル・クロ)のディスク大賞を受賞し、脚光を浴びることとなります。つまり、〈タンゴ・アン・スカイ〉とは違って形での、ディアンスの出世作と言えます。
溌剌としたパッセージで始まる第1楽章では、持続的に低音が鳴り響きます。これは機能和声的なオルゲンプンクトではなく民族音楽のドローンのような役割を持っており、同じ書法は本曲の終楽章でも聴かれます。のみならず〈カプリコーンの夢〉や《トリアエラ》といったその後の作品でも現れ、ディアンスの作曲技法を特徴づける要素のひとつだということがわかるでしょう。
主部と中間部を通してわずかなモチーフのみでミニマルに展開される第2楽章は、ブラジルらしいリズムの特徴をもった舞曲です。タイトルの「バッハ風(Bachianinha)」は正確に訳すと「小バッハ風」で、ヴィラ=ロボスの代表作《ブラジル風バッハ》を意識して書かれていることが示されています。
ディアンスは「言葉あそび」でタイトルを決めることがしばしばありますが、第3楽章の〈アンダンティーノスタルジー(Andantinostalgie)〉も、速度指定の「アンダンティーノ(Andantino)」と郷愁を意味する「ノスタルジー(Nostalgie)」を組み合わせたディアンス自身の造語です。これまでの楽章よりもメロディアスに構成されており、それほどテンポの遅い曲ではないにも関わらず、本曲全体の中で緩徐楽章のような役割を果たすことに成功しています。
第4楽章は、第1楽章と同じくドローンが曲の大部分で聴かれ、後半ではさらに畳み掛けるようにさまざまな特殊奏法が巧みに用いられてエキサイティングに締めくくられる、非常にディアンスらしい楽章と言えます。タイトルの〈トゥフ〉とは少年時代のヴィラ=ロボスの呼び名で、1997年に書かれた伝記『トゥフ、少年ヴィラ=ロボス(Tuhu, o menino Villa-Lobos)』(カレン・アシオリ/Karen Acioly)でも同様のタイトルが使用されています。少年のような活発さといたずら心にあふれた楽章、とも言えるのかもしれません。