トリアエラ

第1楽章 ライト・モチーフ――ブラジルのタケミツ
第2楽章 ブラック・ホルン――スペインがジャズと出会うとき
第3楽章 クラウン・ダウン――サーカスのジスモンチ

20世紀に入ってからのディアンスの代表曲のひとつである〈トリアエラ〉は、2003年に楽譜出版がされました。ギリシャ出身のギタリスト、エレナ・パパンドレウに献呈されており、パパンドレウはその後2004年に、この曲を含めたオール・ディアンスのCDをリリースしています。

この《トリアエラ》もディアンス自身の造語で、ギリシャ語で「3」を表す「トリア(tria)」と、多様なニュアンスを持つ言葉「エラ(ela)」を組み合わせたものです。「エラ」は状況に応じてさまざまな意味を持つため説明しつくすのは困難ですが、英語で言う「Hey!」(呼びかけ)や「Come on!」(催促/苛立ち)のような使われ方をします。そして同時に、「ela」は「彼女(女性を指す代名詞)」を意味するポルトガル語でもあります。各楽章のタイトルにも表れているとおり作品全体はブラジル音楽を意識して作られていますが、初期の作品群よりもよりディアンス自身の音楽性がより深化した形で表現されます。

ディアンスが敬愛した武満徹の名を借りた第1楽章は、静謐な和音とハーモニクスが効果的に使われており(それは武満が〈すべては薄明のなかで〉のような作品などで用いた書法でもあります)、ディアンスの鋭敏な音響感覚が発揮された楽章だと言えるでしょう。

第2楽章も言葉遊びで作られており、「ホルン」の語源であるツノ(horn)と、ヨーロッパのツノと呼ばれる「スペイン」、そしてジャズを得意とする黒人という、それぞれの言葉の複合的な意味合いがタイトルを成立させています。さらに作品の音楽的な内容としては、中世に中米にわたりその後ヨーロッパに逆輸入された舞曲「サラバンド」の要素なども取り入れられ、ラテンアメリカとヨーロッパの歴史的音楽的つながりが絶妙なバランスで表現されています。

第3楽章はタイトルでも使われているブラジルの音楽家ジスモンチのアルバム『シルセンシ』に影響を受けて制作されたと作曲家本人が語っており、また曲中は《ヴィラ=ロボス讃歌》でも使われたドローンが、より効果的に鳴り響きます。最後はカッティングやタッピング、パーカッション、そのほかさまざまな特殊奏法で華やかに締めくくられます。