さまざまなジャンルの作品の編曲を手がけたディアンスにおいて、ジャズというのはとりわけ力を入れて取り組まれたものでした。「マヌーシュ・ジャズ」の伝説的ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの〈ヌアージュ〉、スウィング・ジャズの代表格デューク・エリントンの楽団で演奏された〈A列車で行こう〉、ディジー・ガレスピーの代表的なナンバーであるビバップの〈チュニジアの夜〉、そして「モダン・ジャズの帝王」マイルス・デイヴィスの演奏により一躍有名になったセロニアス・モンクの〈ラウンド・ミッドナイト〉というように、60年代までのジャズの歴史をたどるように、さまざまなスタイルのジャズ・ナンバーを編曲していきます。そしてそれが単にクラシックギター用に「移されている」だけでなく、原曲の良さを活かしつつもクラシックギターならでは表現に「アレンジ」されていることが、ディアンスの編曲の手腕と各曲へのリスペクトがよく表れていると言えます。
〈ラウンド・ミッドナイト〉も〈愛の讃歌〉と同じく、6弦をEフラットに下げて調弦され、ギターは通常使われることがほとんどない変ホ短調で編曲されています。この曲は楽器・歌を問わず数々の著名ジャズ・ミュージシャンにより演奏されていますが、ディアンスは作曲者モンク本人による演奏をベースにアレンジを施しており、調も原曲通りとなっています。テクニカルで流れるようなメロディーラインと、モンク独特の自由なリズム感が同居したようなアレンジは、ジャズ・ギタリストたちによるカヴァーとも違ったこの曲らしい魅力を醸し出しています。