1985年に出版されまたたく間に流行した〈タンゴ・アン・スカイ〉は、現在でもディアンスの作品のみならず、クラシックギター全体のレパートリーの中でも最もポピュラーな曲のひとつとして広く親しまれています。ギターならではの即興的なフレーズが随所に見られ、作曲家自身も、「(1978年に)パリで行われたパーティのときに即興演奏したもの」と出版譜の裏表紙に記しています。
タイトルの「スカイ(Skaï)」は、出版譜にあるように「なめし皮」を意味するフランス語だとしばしば解説されますが、正確には1960年代にドイツの皮革メーカー「Konrad Hornschuch AG」が製造していた合成皮革の登録商品名で、そこから派生して「偽物の革」などを指す表現となりました。いずれにしろ、天然でない、人工的な「タンゴ」だというニュアンスがこのタイトルにこめられています。
ただし、たんにタンゴを模したということにとどまらず、曲中では例えばヴィラ=ロボスのギター作品に聴かれるような、ディミニッシュのスケールやコードを効果的に用いたフレーズが現れるといった、ディアンスらしい「遊び心」が加えられています。この曲によって早い時期から広く名声を獲得したディアンスが、遺稿としてピアソラの編曲作品を書いていたことは、単なる偶然ではないめぐり合わせがあるのかもしれません。